第31回応用経済時系列研究会・研究報告会




2014年6月28日(土)  10:30-17:00

東京大学大学院 経済学研究科学術交流棟(小島ホール・2階小島コンファレンスルーム)  東京都文京区本郷7-3-1
(地下鉄丸ノ内線 「本郷三丁目」駅下車 徒歩約10分
地下鉄大江戸線 「本郷三丁目」駅下車 徒歩約8分
地下鉄南北線 「東大前」駅下車 徒歩約15分)


参加申し込み方法については別途こちらをご覧下さい

プログラム

午前の部 : 座長 阿竹 敬之(SMBC日興証券株式会社) 報告35分,討論・質疑応答15分,計50分

10:30-11:20
「日銀短観による企業家の景況感予測について」
姜 興起*(帯広畜産大学)
野田 英雄(東京理科大学)
コメンテーター:林田 元就(電力中央研究所)
11:20-12:10
「無形資産を考慮した企業のデフォルト率の推計」
土屋 宰貴*(日本銀行)
西岡 慎一(日本銀行)
コメンテーター:青木 義充(株式会社QUICK)
■ 12:10-13:10
昼食/理事会(東京大学大学院 経済学研究科学術交流棟(2階会議室))

■ 13:10-13:25
総会(東京大学大学院 経済学研究科学術交流棟(2階小島コンファレンスルーム)



午後第1部 : 座長 田村 義保(統計数理研究所)

13:25-14:15
「日本におけるベイジアン統計学」
和合 肇(統計研究会フェロー/応用経済時系列研究会元会長)
コメンテーターは設けずフロアからの質疑応答のみで15分を予定
14:15-15:05
「アンサンブルカルマンフィルタを用いた電力需要予測手法の開発」
竹田 恒(東京電力/総合研究大学院大学)
コメンテーター:中妻 照雄(慶應義塾大学)

午後第2部 : 座長 西山 昇(東京工業大学) 

15:20-16:10 
「Bipower Variation を用いたオプションストラテジー」
山田 雅章
コメンテーター:永田 修一(関西学院大学)
16:10-17:00 
「ボラティリティ予測のためのニュース解析」
森本 孝之*(関西学院大学)
山内 海渡
川崎 能典(統計数理研究所)
コメンテーター:笛田 薫(岡山大学)

記号*は,複数著者による発表での,実際の登壇者を意味します.




要旨

日銀短観による企業家の景況感予測について
姜 興起*(帯広畜産大学)
野田 英雄(東京理科大学)
これまで、景気動向を把握するための種々の方法が提案されてきた。Stock-Watsonの動的因子分析法は代表的な手法の1つである。この方法は、経済指標の系列から抽出した因子(Stock-Watson指数)で景気変動をみる点で客観的な分析方法と評価される。しかし、経済指標の選択によって分析結果が異なるという問題がある。また、Stock-Watson指数は基本的にARモデルで表現するため、一般性を欠く点も指摘される。
Kanoh-Saitoは客観的な選択基準のない経済指標の組から作成されるStock-Watson指数よりも、人々の景況感に関する情報を活用すべきことを主張し、経済指標の代わりに日銀の短観データにStock-Watsonの動的因子分析法を適用する景気指標作成のアプローチを提案した。経営者の景況感に関する情報を積極的に利用するKanoh-Saitoのアイディアは興味深いが、Stock-Watson法のARモデル表現への依存問題は依然として残っている。
 本研究では、日銀短観における景況の「現状判断」が景気変動の実態について重要な情報源であるという認識を基本理念として、日本の製造業と非製造業に焦点をあてる。我々は、短観における「先行き予想」の情報から次期の現状判断を的確に予測できれば、今後の景気動向についてより早い情報を提供可能と考える。そこで、企業家の先行き予想から次期の業況感を予測するベイズ型モデルを構築し、モデルの推定はカルマン・フィルターで行う。さらに、利用可能なマクロ経済系列があればそれもモデルに組み込むことで、予測精度を改良しながら、景気動向を反映できる経済系列の特定とそのラグ構造の推定も課題として、より確かな業況感の予測方法を提案する。

無形資産を考慮した企業のデフォルト率の推計
土屋 宰貴*(日本銀行)
西岡 慎一(日本銀行)
本稿では、企業経営にとって重要とされながらも、客観的な評価が難しかった無形資産が、企業のデフォルト率に与える影響を定量的に分析した。無形資産として「企業の技術力」と「経営者の資質」を採り挙げた。これらは、個別企業ごとに数値化されたデータが利用可能である。
分析の結果、(i)企業のデフォルト率には、財務情報に加えて、これらの無形資産が統計的に有意な説明力を有している、(ii)無形資産を加えたモデルは、財務情報のみを用いたモデルよりもデフォルト率の推計精度が高く、その精度の差は概ね統計的に有意である、(iii)無形資産の変化が企業のデフォルト率に及ぼす影響の大きさは、財務情報の変化が及ぼす影響と比べて遜色ないことがわかった。本稿の結果を踏まえると、企業のデフォルト予測の精度を向上させるためには、無形資産を考慮することも有益である可能性がある。このため、客観的な評価が可能なかたちで無形資産に関する情報を整備していくことは、企業の信用リスクを評価していくうえで重要と考えられる。
日本におけるベイジアン統計学
和合 肇(統計研究会フェロー/応用経済時系列研究会元会長)
ベイズ分析とは、ベイズ統計学の考え方を用いて,実際の問題を解決することを目指している方法で,最近その有用性が多方面で認識されるようになっている。ベイズ統計の応用は,機械翻訳や人工知能から意思決定理論、暗号解読や遭難船捜索、画像解析、ビッグデータ解析など,社会科学、人文科学、自然科学と工学、医学、生物統計、金融、マーケティングなど多分野で注目を集めている。
ベイズの手法がこれほど多方面で使われるようになったのは、コンピュータの性能の進歩により、モンテカルロ法の実用性が飛躍的に高まったからである。従来、数学的に強い仮定の下に導いた大標本近似理論に基づいて行っていた統計的推論が、マルコフ連鎖モンテカルロ法によるシミュレーションの結果を集約することで、数値的に得られるようになった。BUGSに見られるようなグラフィカルなモデル記述を可能とするソフトウェアの普及と相俟って、統計的モデリングの自由度は格段に高まったのである。
本講演では、日本におけるベイズ統計学(それはいつ頃、どのようにして日本に導入されたのか)、日本で開催されたベイズ統計学関連の学会、海外で開催されたベイズ統計関連学会、海外で活躍している日本人のベイジアン、日本のベイズ統計研究者、日本で開催されたベイズ統計学関連国際集会(ISBA2012)の内容について紹介し、今後の見通しを述べる。

アンサンブルカルマンフィルタを用いた電力需要予測手法の開発
竹田 恒(東京電力/総合研究大学院大学)
東日本大震災後の逼迫した電力需給状況に対処するため,夜間,余剰電力で水をくみ上げ,昼間その水を使ってピーク需要時に発電する揚水発電の重要性が増し,1〜2週間先までの揚水計画策定の精緻化が求められている.現在,一部の電力会社では当日・翌日分しか精緻な需要予測は行っていない.本研究では、長期間でも精度良く行うための手法を開発した.太陽光発電を始めとする再生可能エネルギーの大量導入や国民の節電意識の高まりに後押しされて,省エネ家電が急速に普及したことによる昨今の需要構造の急激な変化にも柔軟に対応可能である.
はじめに,電力需要構造の特徴を分析し,考えられる潜在的構造成分を状態空間表現でモデル化,至近の訓練データとアンサンブルカルマンフィルタを用いて予測を行う.その後,予測精度を実用レベルにまで高めるため,過去年同時期の訓練データも加えて,縮小回帰手法であるラッソを適用した精度改良を試みた.
予測精度を評価したところ,実運用レベルにほぼ達したことが分かった.また,現在,別途計算が必要な気温−需要感応度など有用な指標を予測と同時に求めることも可能となった.
本手法を用いた予測システムを構築すれば,通常の予測業務としての利用に加え,実務者でも需要構造成分の追加が,状態空間モデリングの特性上比較的容易に行えるため,分析プラットフォームとしての活用が期待できる.
Bipower Variation を用いたオプションストラテジー
山田 雅章

本研究では、アウトライトのオプション取引における、テクニカル的ストラテジーの有効性を考察した。テクニカル的ストラテジーとして、Bipower Variationを用いたテクニカル指標(BPVレシオ)を採用した。このストラテジーの有効性は、原資産を現実の株価とする短期間のコールオプションおよびプットオプションの日次取引のバックテストによって検証した。本研究では、日経平均株価の場合を示す。取引タイミングをBPVレシオのレベルで制限した場合と、制限無しの場合とを比較すると、両者のパフォーマンスに明確な差が確認された。この結果は、超過収益の源泉となりうるテクニカル的ストラテジーが存在する可能性を示したものと言えよう。

ボラティリティ予測のためのニュース解析
森本 孝之*(関西学院大学)
山内 海渡
川崎 能典(統計数理研究所)
近年,検索数指数やニュース記事などのウェブ上の情報を用いた経済分析が盛んに研究されている.Google Search Volume Index (SVI) を用いて車や家の売上の予測をおこなった Choi and Varian (2012),ニュースのヘッドラインや SVI を株価のボラティリティ予測に用いた Vlastakis and Markellos (2012) などがある.これらの研究では,特定の索引語の出現頻度を分析に用いるため,選択する単語に結果が左右される場合があり,また表記揺れにも弱い.そこで本研究では,ニュース解析に特定の単語ではなく話題を用いた分析を試みる.


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