「銀行における金融リスクの制御について」
池森 俊文 氏(みずほ第一フィナンシャルテクノロジー株式会社)」


2005年2月21日(月)19:30〜20:30


談話会の講師である池森氏は金融のリスク管理の専門家として第一線で活動している実務家であり、又、今回のご発表内容は早稲田大学大学院ファイナンス研究科、中里大輔教授との共同研究である。

談話会のテーマは「銀行における金融リスクの制御についてー金融リスクの制御に関する理論と実務」であった。テーマにある銀行(証券=投資銀行)と筆者が属する資産運用会社のリスク管理は、VaR(バリュー・アット・リスク)、ボラティリティ等の共通語を使用しながら、重視する「ターゲット期間」と「対象データ」に差があると考えられる。銀行(証券)は「短期運用」における資本等の「絶対額(通貨単位表示)」、資産運用会社は「長期運用」における対ベンチマークの「相対リターン(%表示)」である。


ご講演では、銀行における金融リスクの制御を議論するにあたり、経営の視点からみた統合リスク管理システムの枠組みを提示された。それは、期初に各部門へ賦課した資本による収益性を期末に評価して、その評価をもとに次期の資本を再賦課するプロセスとして組み立てられている。今回は銀行を異なる不確実性(リスク)を有する複数の業務の集合体としてモデル化、内部資金システムを軸として、貸出、ALM、トレーディング、の3部門に分解している。また、各部門の損益発生メカニズムを確率的なモデルにより表現し、分布を想定した上で、平均・分散より、損失を抑制しつつ収益を積み上げるルールを示した。

貸出部門では、貸倒損失の発生が不確実要因(=リスク)と特定している。一年に発生する損失(利鞘―経費―貸倒損失)から損益フロー分布を想定、損益フローの期待値が一定の要件を満たすように利益獲得のためのルールとしてのプライシングガイドラインを示した。また損失抑制のためのルールとして@各取引先に対する貸出額均等、A均一の回収率、Bデフォルトが相互に独立という仮定の下、(1)均等与信の必要分散社数、(2)配賦リスク資本の範囲内に抑制する与信上限を設定した。

ALM部門では、流動性(資金収支)リスクが集約されるとしている。損益フローは、資産・負債の金利変動幅を同一と仮定して、各時点毎の資産負債の差額から金利更改GAPを含む広義のコストを控除したものとしてモデル化している。利益獲得のルールとして、予想(資金、金利)シナリオの下での期待利鞘額が経費と資本コストを上回る条件を示し、また損失抑制のためのルールとしてEaR(アーニング・アット・リスク)からGAP上限を設定した。

トレーディング部門の損益フローは、一定間隔毎のデルタポジションに、その期間中の市場変動幅を掛けて得られる損益から経費を引いたものとしてモデル化する。利益獲得のルールからは、各市場トレンドを読み取り、それにあわせたデルタポジションを構成して経費と資本コストを上回る期待収益が想定できるトレーダーが必要であることが導かれ、また損失抑制のためのルールとして、(デルタ)ポジションリミットと損切りルールを設定した。

ご講演終了後には、短時間ながら活発な質疑応答が行われた。司会の山田理事は、個別銀行のリスク管理に沿った行動がマーケット全体に与える影響について、又、筆者は各部門への資本賦課の最適化に関連して、全体の分布形状について質問した。また、フロアからは、貸出部門でのデフォルト相関に関連する質問、コメントが多く、特に独立性の仮定をはずした場合の実務的対応についての質疑応答が印象的だった。というのは、池森氏は、各質問に対して一つ一つ誠意を持って回答していたものの、中にはノウハウに関連して詳細な説明が難しい質問が含まれていたと想像できるからである。



実務家が談話会のような講演会に参加する目的は、情報交換の場に接するためである。交換である以上、受けるだけでなく、与えることが必要となる。企業に属する実務家の多くは、なるべく与えず、できるだけ多く受ける行動をしている、と感じられる時がある。しかし今回の池森氏・中里氏の発表のように最先端の理論研究であれば、たとえ多くの情報を与えたとしても、他者は容易に追いつくことはできないし、本当のノウハウは、理論を実務に展開していく過程に存在すると考えることができた発表だった。

以上


執筆・西山 昇(朝日ライフ アセットマネジメント)


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