「WTI原油: NYMEX先物価格とフォーキャスターによる期待
NYMEX上場のWTI原油先物には、どの程度リスク・プレミアムが含まれていたか?」
中野 聖子 氏
(一橋大学大学院経済学研究科 博士後期課程)


2007年3月1日(木)19:30〜20:30


 原油等の商品価格の急騰に伴い、商品を原資産とする金融商品への投資や原燃料価格のヘッジを目的とした金融市場の利用が急速に高まり、研究者の間でも分析対象として関心を集めつつある。

今回の講演者である中野聖子氏は、商品先物市場を所管する経済産業省商務課において商品先物行政の実務に携わる傍ら、商品市況について研究を行っている。今回の講演もそのような氏のバックグラウンドを反映して、市場関係者にとっても示唆に富む内容となった(今回の講演は、研究者としての立場で行なわれたものであり、経済産業省の公式見解を示すものではない)。

講演の内容は第一部と第二部に分かれ、第一部では、背景となるWTI原油価格の動向やその分析手法について説明がなされた。具体的には、WTI原油について、期待スポット価格(Consensus Economics社調査のサーベイ・データ)、先物価格(New York Mercantile Exchange (NYMEX)上場)、および、事後的に実現したスポット価格を比較し、2003年頃、リスク・プレミアムおよび予測誤差に構造変化が生じた可能性があることを、視覚的に示した。また、その構造変化を定量的に判定するための手法としてBai & Perron(1998)による構造変化テストが紹介された。

第二部では、定量的分析より、以下の点が明らかにされた。
(1)他の金融商品同様、WTI原油先物価格においても、フォワード・ディスカウント・バイアスが存在。
(2)サーベイ予測データを用いることで明らかになった、上記バイアスの統計的有意な原因は(i)予測誤差と現先スプレッドの相関、および、(ii)平均予測誤差の存在。統計的に有意な時変(time-varying)リスク・プレミアムは不存在。
(3)2003年上半期以降、約9パーセンテージ・ポイントの平均リスク・プレミアムが存在。
(4)この平均リスク・プレミアムの発生要因は、需給者による超過ヘッジ需要以外。
中野氏は、こうしたシステマティックな予測誤差について、撹乱的ショックの分布に構造変化が生じたか否かについて不確実性があり、それについてラーニングが行なわれている場合、例え主体が合理的であってもシステマティックな予測誤差は生じると指摘し、その上で、イラクの情勢不安や中国の経済成長等は、そのようなラーニングを生じさせるために充分な事象であったのではないかと、締めくくった。

近年、原油価格高騰に関する一部の有識者の論評において、こうした価格高騰は、投機家の非合理的行動によってつりあげられた先物価格の影響によるものだといった論調もみられる。今回の研究成果と上記のラーニングに関する中野氏の見解は、こうした定性的な議論に一石を投じるものであると思われ、この点について今後さらに解明されることを期待したい。

以上

                                           
執筆・正会員 荒木 浩介(東京工業品取引所)


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